「BBB展」展評《見えることと見えないことの明滅》/八角聡仁
八角 聡仁(やすみ あきひと/批評家、近畿大学教授)

露口啓二『地名』展示風景(八戸市美)
photo by ICANOF
目に見えることと目に見えないこと、それは今回の「Blinks of Blots and Blanks」(通称BBB展)と題された展示の内容とも関わっている。イカノフ企画展で一貫してその中心に置かれてきた写真というメディアの本質的な可能性は、人間の目には見えていなかったものを見せることにあった。八戸市美術館の壁面を埋めつくすように展示された写真家・露口啓二の三百点あまりの作品は、いまや日常的にも、そして美術館という空間においてさえあまりに「自然」なものとなった写真を、言葉=タイトルを伴った「作品」という人工物を通して内側から批判的に検証している。それはイメージの滲み(残像の揺曳)によって、映画がまさしく可視と不可視の明滅によって成立していることを喚起する詩人・吉増剛造の「gozoCiné――エッフェル塔(黄昏)」にも通底する。題材の隔たりにもかかわらず、両者の作品が「水」と「地名」を重要なモチーフとしていることは偶然ではない。写真や映画は、「川」や「雨」ではなく「水」を(すなわち「見ず」を)、その物質と運動を見ることを促したからであり、地名とは自然と文化の間のズレを指し示しているなにものかだからである。

吉増剛造『エッフェル塔(黄昏)』常設上映・画像展示(八戸市美)
photo by ICANOF
同展は日本芸術文化振興基金助成事業として、09年9月18~27日、八戸市美術館で開催された。新刊の同展カタログ=露口啓二写真集の問合せは、ICANOF事務局(icanof8@gmail.com(半角にご変換下さい)/お問い合わせフォーム/http://icanof.parallel.jp/)まで