2013KW01

《KW気分に誘われて》/豊島重之

 
(1)
 思いがけないことに、八戸市美術館全階にて、ただいま開催中の三陸復興国立公園指定・ICANOF第11回企画展「北島敬三———種差 scenery 」は、ひそかな都市伝説の一片を呼び込んでいるようだ。
 
 8月31日に倉石信乃明治大学教授による「孤島・トーク」でオープンし、翌9月1日には、60名ほどの観客を集めた中野真李・田島千征によるダンス公演「Kapiw=かぷしま」や、南三陸復興ステーションを立ち上げた山内明美大正大学准教授をメインとした「コメ・トーク」および、同展出品作でもある共著『種差 四十四連図』出版祝賀会(80名ほどの出席)を経て、9月5日デーリー東北紙面に、倉石教授によるスリリングな「展評」掲載、かつ7日「北島敬三写真講座」(市内中高生の写真部・美術部・引率教諭=30名ほどの参加)も行なわれた。この時点で、本展の来場者は600名を越え、やや高価でもある北島写真集『種差 四十四連図』も、限定500部のうち、八戸市内のみならず札幌から東京、那覇まで、既に100部ほどが購入されていることを御報告したい。むろん今後どうなるかは分からない。
 
(2)
 不安な思いのなか日々を暮らす八戸の人々にとって、被災した種差復興展は「ヨロコビ」以外であるはずもない。それなのに、「面白おかしく語られる」都市伝説めいたものが入り込む余地があるのだろうか。市内の中高生たちが、1Fの被災地写真、2Fの種差写真連作をみたあと、3Fの北島写真に基づく「蕪島プロジェクション・ゾーン」に足を踏み入れた瞬間、息せき切って1F受付に舞い戻ってきた。「コワいものをみた」というのだ。受付担当者は、それがなんのことか分からず「エッ、そうですか、私も御一緒しましょうか」と応じた。ところが、その3~4名ほどの中高生は、「いや、いいです、もう一度、確かめてみます」と言い残して、3Fに駆け上がっていった。と思いきや、すぐさま戻ってきて「やっぱり、コワい」。各階の巡視員に尋ねてみたが、別に事故らしきことはいっさいない。ともかく、中高生たちとともに3F展示室に駆け上がって「コワいもの」の正体を確認することにした。

 
2013KW02s2013KW03s2013KW04s(4点とも、撮影soumon ©ICANOF)

 じわりと中高生たちの感じたとおりだと同感せざるをえなかった。3F「蕪島プロジェクション」は、北島敬三が撮影した三種「蕪島を乱舞するウミネコ・蕪島まつり参詣者の顔々・蕪島や種差をテーマにダンスする八戸の人々」を、展示室の三面にマルチ投影したもの。それぞれを取り上げるなら、さして「コワいところ」はまったくない。ところが、同時に三面プロジェクションされることによって、北島写真にはらまれた「コワさ」が、はからずも「モガキだした」のかもしれない。
 
 「KY気分」とは、空気を読めない、いまどきの少子と高齢者をさすらしい。では「KW気分」って、何のことなの? 「コワいって、こういうこと?」って、ある意味スゴイことじゃないか。「コワいってクーキがワカる=KW系」の中高生が、わが八戸にもいたなんて。もう「KY」をコワがる必要はない。私たちの身近には「KW系少子」という心強い味方がいるのだから。

(本展キュレーター豊島重之)

Comments are closed.