《ようこそ、未生の世紀タネサシ へ》1・2/豊島重之

豊島重之(モレキュラー演出家/ICANOFキュレーター)

 

letter1 いよいよ 8月31日(土)から八戸市美術館で開催される本展のみどころをいくつか紹介したい。
 気鋭の美術評論家・写真史家といえば、国内広しといえどもこの人しかいないという、倉石信乃教授によるトークからスタートする。三陸復興国立公園に新規編入された種差・階上を含む北三陸を、世界史的な眺望においてどう捉えることができるのか。ハワイ大学の客員研究員として長らくハワイ諸島を歩き回った倉石教授にとって、それは「群島=アーキペラゴの特異点」にほかならず、翻っていうと、種差海岸から沖縄・大東島(ほか離島の数々)・グアム・台湾を含む太平洋を、同時にまた、朝鮮半島・黄海・東シナ海・南沙諸島をも含む日本海を、逆照射することも不可能ではない。ポストグローバリズムのパワーポリティクスを念頭から差し引いたとしても、こうした「イマジナリー=想像的」な視点ぬきに、タネサシ再生はありえないといっても過言ではあるまい。
 そのことは、翌9月1日の山内明美さんをメインとしたトークでも同様であろう。南三陸町で生れ育った山内さんは、三陸被災で近親者・旧知を海嘯に奪われながら、すぐさま「南三陸復興ステーション」を立ち上げ、一躍、「トキの人」として、多くの浜手(はまで)の人々に勇気を与え続けてきたことはよく知られている。すべてを引き波に持って行かれたお先真っ暗・引き続く予震の不安・将来のみえない無力感・取り返しの効かないダメージのなかで。山内明美さんの研究成果のひとつ、なぜ東北はコメをつくらされてきたか、ヒエ・アワをやめてコメをつくったことで、東北・三陸が度重なる空前の飢餓を招いてしまったのではないのか。その前史から、彼女のトークを始動させてほしいと企んでいる。
 いずれのトークも八戸市と八戸市美術館の共同主催により聴講無料(司会進行:豊島重之)。
  letter2 9月1日(日)14時半開演(開場15分前)のダンス公演(2Fギャラリー)も見のがせない。リセ教師かつモレキュラーの中軸でもある田島千征と、リセエンヌの先鋭、中野真李との初のデュエット『kapiw カピウ・かぷしま』こそ、本展の主題である種差スィーナリーのための、最も開かれた入射角だからである。
 このダンスが、2Fギャラリーに展示された北島敬三氏の写真作品と響き合うことで、写真とダンスに分有された離接面が切り出されてくる。それは黒の地(ぢ)であり、幾重にも畳み込まれ塗り込められた黒の断層・黒の前史である。私たちが見ているのは、単に撮影された種差の景観ではなく、黒地から「もがき出てきたモノ」のインデキシカリティ=指標性なのであり、同様に、ダンスもまた、単に二人が表現したいことがそこに体現されているのでなく、黒地を掻き分けて「もがき出てきたモノ」にほかならない。
 本展オープンに合せて写真集「函入り・二冊組み」も新刊されるが、そのなかに私は、襟裳岬の浜「歌露=うたろ」と陸中の浜「田老=たろう」を呼応させて記している。ダンス公演「かぷしま」には、重力レンズのダークマター(暗黒物質)のごとく、歌舞の島の露地の一滴が、果たして垣間見えるものだろうか。
 
《マイマイガ、かくも美しき》3・4・5 へ続く)


『kapiw カピウ・かぷしま』出演者
2013_kapiw_mari
中野真李 NAKANO Mari
ソロ作品『アナトリアの赤い月』『狐火』『アレクサンドリアの詩』は埼玉全国コンクールにて連続「第三位」受賞。2011年ソロ作品『わが谷 緑なりき』は東京全国コンクールにて全国6位入賞。2012年ソロ作品『雪暮れて十日夜(とおかんや)』は埼玉全国コンクールにて「第四位」受賞。2013年ソロ作品『夜爪(よづめ)』は埼玉全国コンクールにて「東京新聞賞」受賞。2012年八戸市南郷文化ホール招聘のモレキュラー公演『にのいち』に出演。2013年青森県立美術館招聘のモレキュラー公演『カフカス』に出演。
(photo: soumon 中野真李(下)・田中幸乃(上)©dblycee)
2013_kapiw_chiyuki
田島千征 TASHIMA Chiyuki
1996年豪州アデレード芸術祭招聘のモレキュラー公演『Façade Firm(肖像画商会)』に渡航・出演。1999年フランス五都市モレキュラー公演『Os-iris/Oscillis』に渡航・出演。2000年代は国際交流基金フォーラムにて毎年モレキュラー公演『ITADORI』『HO- PRIMER』『NOW-OH-ON』に出演。2006年世田谷パブリックシアター企画のモレキュラー公演『OHIO/CATASTROPHE』に出演。2007年沖縄県立美術館にてモレキュラー公演『DECOY』に出演。2010年早大演劇博物館企画のモレキュラー公演『Ballet Biomechanica』に出演。2011年杉並「座 高円寺」提携モレキュラー公演『のりしろ』に出演。2012年八戸市南郷文化ホール招聘のモレキュラー公演『にのいち』に出演。2013年青森県立美術館招聘のモレキュラー公演『カフカス』に出演。
(photo: ICANOF ©molecular )

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